基本事項(共通事項)

ここではGELATOモデルにおける基本事項に関して述べる。

GELATOにおけるトレーサーの位置情報の記述方法

GELATOにおいて用いられるトレーサーの位置は流下方向および横断方向の無次元座標を用いて表される。 例えば、河川や水路で境界適合座標を用いた場合、Figure 1 に示すよう、 水路下流方向に \(\xi\)、横断方向に \(\eta\) のいずれも0から1の範囲の 無次元パラメータでトレーサーの位置情報を表すことになる。

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Figure 1 :トレーサーの位置の無次元表示方法

乱流の影響を考慮したランダムウォークモデル

Callies(2011)、McDonald and Nelson(2020)によれば、対象トレーサーの 位置ベクトル \(\boldsymbol{r}\) は次式で表される。

\[\boldsymbol{r}(t+\Delta t) = \boldsymbol{r}(t)+ \boldsymbol{U} \Delta t + \boldsymbol{U}_p \Delta t + \boldsymbol{L}\sqrt{2K\Delta t}\]

ここで、 \(\boldsymbol{U}\) は流れの流速ベクトル、\(\boldsymbol{U}_p\) は トレーサーの流速ベクトル(トレーサー自身の持つ推進速度ベクトル)、 \(\boldsymbol{L}\) はその値が、平均値0で標準偏差1になるようなガウス分布ベクトル、\(\Delta t\) は計算時間ステップ、\(K\) は乱流拡散係数である。

\(\boldsymbol{L}\) はBox-Muller変換 (Box and Muller, 1958)を適用すると、 2次元の場合は以下のように表される。

\[L_0 = (-2 \log U_1)^{1/2} \cos (2\pi U_2)\]
\[L_1 = (-2 \log U_1)^{1/2} \sin (2\pi U_2)\]

ここで、\(U_1\)\(U_2\) は互いに独立な0~1の正規乱数であるり、これらを適用することにより、 ゆわゆるRandom Walkモデルとなる。\(K\) 渦動粘性係数 \(\nu_t\) の線形関数とし次式で与える。

\[K= a \nu_t + b\]

GELATOモデルでは、上式の \(a\) および \(b\) をパラメータとして与える。\(\nu_t\) に関しては、 流れの計算結果から自動的に読み込まれる。

トレーサーのクローニングについて

上流から供給されるトレーサーは流れに乗って下流に輸送されるが、流れの状況によってはトレーサーが 十分に流れてこない領域が発生する。特に流れが淀む場所、剥離域、分流した場合の一方などでは、 上流から大量のトレーサーを供給しても、対象領域にはなかなか到達できない場合がある。 一般に、上流からの供給数には上限があり、無限に供給出来る分けではないので、何等かの工夫が必要になる。 そこでGELATOでは、トレーサーの数が少ないセル(もしくはトレーサーが存在しないセル)に新たなトレーサーを 発生させ(分割させ)トレーサーが十分に無い領域でも流れの様子を追跡しつつ、トレーサー濃度を管理する という手法を採用している。例えば、

  • あるセルでトレーサーの数が1個になったら、2分割させる.

  • ただし、重みは1/2とし、これを記憶する

  • Cloningは何度でも繰り返し可能とするが、所定の世代(Generation)で打ち切ることも可能とする

  • オプションとして、トレーサーがゼロのセルには1個発生させることも可能とする。この場合のトレーサーの重みはゼロとするが、可視化は可能なので、流れの可視化用のトレーサーとしては有効となる。

トレーサーの分割の様子を模式的に Figure 2 に示す。

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Figure 2 :トレーサーの分割(クローニングのイメージ)

最初に投入されたトレーサーを第1世代、初回の分割で発生したものを第2世代、その次を第3世代… と定義すると、第2世代では重みは1/2、第3世代では重みが1/4、第 \(n\) 世代では \(2^{n-1}\) 回の分割を経験していることを考慮すると、その重み \(W=\cfrac{1}{2^{n-1}}\) となる。 これを利用して各セル内の重み付きトレーサーの重み付き総個数をカウントすることにより、 濃度の算定が可能となる。従って、たとえば第10世代では \(n=10\)\(W=\cfrac{1}{2^9}=0.000195\), \(n=20\)\(W=\cfrac{1}{2^{19}}=0.00000195\) となる。

GELATOで使用される2次元流れの計算結果

GELATOでは2次元の「流れ」に乗ったトレーサーの追跡をラグランジェ的に行うので、「流れ」の計算結果は予め用意しておく 必要がある。GELATOではデフォルトで2次元構造格子の格子各点上で定義され、CGNSファイルとして保存 された2次元の流速場を読み込む。iRICのソルバーでこの条件を満たすソルバは現時点(2021年4月1日現在) では、Nays2dH、Nays2dFlood、Nays2D+、FastMechである( Figure 3 )。 iRICで使用可能な流れの計算モデルについてはiRICのWebsite(https://i-ric.org/)を参照されたい。

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Figure 3 : GELATOによる計算の流れ

GELATOで使用する流れの計算結果が格納されたCGNSファイルは バーの「計算条件」「設定」「流れの計算結果を読み込むCGNSファイル」から指定する。 (Figure 4)

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Figure 4 : 流れの計算結果が格納されたCGNSファイルの指定

GELATOで使用される計算格子

GELATOでは流れの計算結果にトレーサーを乗せてその軌跡の追跡を行うが、ほとんどの場合、 計算格子は前記の計算結果GNSファイルに含まれるものからインポートして使用する。 Figure 5 に示すように、「プリプロセッサー」ウィンドウの「オブジェクトブラウザ」 から、[格子(データ無し)]を右クリックし、[インポート]を選択した後に、 Figure 6 で格子情報を含むCGNSファイルを選ぶ。 なお、iRICの場合は通常[Case1.cgn] というファイル名になっている。

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Figure 5 : GELATOで使用する計算格子を流れの計算結果CGNSファイルからインポートする。

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Figure 6 : GELATOで使用する計算格子を流れの計算結果CGNSファイルを選ぶ

GELATOから流れの計算プロジェクトのCGNSファイルに含まれる格子データを読もうをすると、 Figure 7 のような警告が出る。これは、現在起動中のプロジェクトが GELATOであるにも関わらず、別のプロジェクト(流れの計算プロジェクト)の格子 ファイルをインポートしようとしていることに対する警告であるが、構わず「OK」を 押して次へ進むと、Figure 8 のような対象の流れの計算結果から 格子がインポートされ、その結果が表示される。

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Figure 7 : 警告メッセージ

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Figure 8 : 格子インポートの完了

この後は下記の手順でGELATOによトレーサーの計算と結果の表示がおかなわれるが、 具体的には次節の事例集でその実例を示す。

・計算条件設定

・計算実行

・計算結果を表示